2010年7月、暑い愛護センターの一室で、その黒いラブラドールは誰かを待っていました。

ガリガリの体、短く切られた爪、ボロボロの革の首輪をつけていて、もしゃもしゃの毛並みは子熊のようでした。咎めるような、あきらめるような、すがるような眼でこちらをみていました。

すぐにでも連れ帰ってあげたかったけど、その時は預かりが見つからず、また来るねと約束して帰りました。
その後、都内を放浪していたその犬は、ハピラブで保護されジェイクという名前をもらいました。
最初の預かりさんのところで数ヶ月経ちましたが、家庭の事情で我が家に来ることになりました。ジェイクはしつけらしいしつけもされておらず、隙あらば脱走しようとし、それでいて人間にはストーカーのようについてまわる甘ったれなコでした。
それからジェイクの里親さん探しの旅がはじまります。「若くて」「健康で」「元気な」ラブラドールだったので、希望フォームはたくさんいただきました。
しかし、もともと脱走癖があり厳しい条件がついていたので、なかなかおまかせする人も見つからず、お断りする日々が半年ほど続きました。やっと決まった新しい家族のもとで、今度こそ幸せに暮らすんだと思っていました。
ところが、ジェイクは決まったはずのおうちを脱走して保健所に収容され、再度ハピラブにレスキューされ、預かりの元へ舞い戻ってきました。幸せになったはずのジェイクの旅はまだ続いていました。
それから2年あまり、家族同然に我が家でくらしました。同じベッドで寝て、キャンプにも一緒に行き、イベントでも大活躍しました。先住犬のジャスティとは寝相まで同じになり、ふたりそろっておやつを待つ姿も似てきました。同じ年頃の男子どうし、私の膝をめぐって張りあっていました。最初の頃の険しい目つきは、だんだんと影をひそめていきました。


そこからのジェイクはどうしたことか、希望者さんがなかなか現れませんでした。験担ぎに名前をJAKEに変えてみたりしました。何度かお見合いをしたけれど、これぞという縁にはなかなか巡り会えず、3歳だったJAKEは、この頃6歳になっていました。
保護からこの日までにいただいたお申し込みは、通算で20組ほど。それでも、この子に合う家族でなければとお断りを重ねてきました。
「JAKEにぴったりの家族を、ゆっくり探そうね」
そう言いながら過ごしていたある日、K様ご家族と出会いました。
先代のラブラドールを見送ったばかりだったご夫婦は、ネットで見たJAKEの写真に一目で引き寄せられたそうです。先代の名前はJACK。実際に会ってみて、JAKEが私たちを選んでくれたんだとおっしゃっていました。
「きっと3年の間、私たちを待っていてくれた運命の子なんだ。」
そして、JAKEはK様の家の一員になりました。

長年連れ添った伴侶のように、初日からお腹を見せて眠りました。
我が家ではちっとも怖がらなかった花火も、K様のお宅に行ってからは「こわい、こわい」と震えるようになりました。それ以来、地元の大きな花火大会がある日は、K様たち家族旅行の日になりました。

JAKEはたくさんの愛情を注がれながら、毎日を過ごしていました。鋭かった目は、まんまるになり、デレデレに甘えた写真をたくさんもらいました。K様は、JAKEが昔どんな経験をしたのかは分からないけれど、今はそれをまったく感じさせずに、毎日家族で楽しく暮らしていると教えてくれました。そんな報告をもらうのが、私たちにとって何よりの幸せでした。

2017年、JAKEは病と戦っていました。
病気の進行は早く、歩くことができなくなったJAKEをつれて、K様はJAKEが大好きだったキャンプ場に、カートで連れて行ってくれました。体はきっと辛かったはずなのに、JAKEは終始ニコニコしていました。
これはその時に私が撮った最後のJAKEです。
笑顔の視線の先にはパパとママの姿がありました。

その一週間後、よく晴れた夏の青空に、JAKEは還っていきました。

どこで生まれ、なぜ路上をさまよっていたのか――保護されるまでのことは、何も分かりません。けれど、保護されてから運命の家族と出会うまで、3年。家族に迎えられ、旅立つまで4年。
長い長い旅路の果てに、JAKEは最愛の家族に看取られて、天寿を全うしました。
今、新しい家族を探すすべての犬に、同じ旅の続きがあります。
——もう大丈夫、今はうちにおいで。
そう言える人を、今日もどこかの次のJAKEが必要としています。
——見つかったね、ずっとのおうちが。
そう言うために、私たちはこの活動をしています。
この物語を公開したのは、思い出のためだけではありません。
今この瞬間も、保護のご相談が数件、保留になっています。JAKEがそうだったように、新しい家族が見つかるまでのあいだ一緒に暮らす「預かりボランティア」が足りず、動けずにいるのです。
保護の依頼は、いつも突然やってきます。様々な理由から家族と離れなければいけない犬たち。でも「もう大丈夫、今はうちにおいで。」——そう言ってくれる人がいれば、彼らは新しい家族と巡り会うことができます。
JAKEを見送った今、私たちはまた、次のJAKEのために一時の救いの場所を探しています。
もう新しい家族を迎えるのは難しいかもしれない。そう迷っている方にこそ、預かりという形があります。
医療費は全額団体負担。困ったときは、いつでも相談してください。
あなたの力が、今必要です。
